日本の将棋に定跡があるように、中国象棋にも駒を動かす上での原則があります。
中国象棋をやり慣れている中国の方に勝つのは至難のわざですが、
以下にあげる各駒の基本的戦略が彼らと戦う時に役立つとうれしいです。
この駒は移動が1つずつである上、「九宮」から出られないという制約があります。
敵を倒すという戦略上、序盤はあまり活躍できませんが、
盤面に駒が少なくなる終盤に入ると
「将・帥」が一直線状ににらみ合うことができないという制約を利用して、
相手方の「将」(帥)の動きをけん制できるようになります。
この駒は序盤・中盤・終盤と元の場所から移動させないのが原則です。
序・中盤の段階でこの駒が移動してしまうと
他の駒(味方の「士・仕」など)の動きが制限されてしまうので、
移動させなければ負けてしまう状況以外は移動させないで下さい。
終盤は盤面の状況を判断し、上の制約を利用して相手方の「将」(帥)に圧力をかけます。
図の赤方「炮」は緑方の「車」に狙われています。
しかしその「炮」取りにかまわず「帥」を青点に動かすのがここでの最善手です。
その後緑方の「車」が「炮」を取っても、赤方の「馬」を黄色点に移動させれば赤方の勝ちです。
この駒は攻撃の主役で、勝負はこの駒の使い方によって決まると考えていいでしょう。
<基本的な動かし方>
この駒は序盤、できるだけ早く外に出すことを心掛けましょう。
定跡で「三歩不出車、着棋必定輸」(3手打つまでに「車」を外に出さないと、必ず負ける)と言います。
「車」を端でじっとさせていても攻撃で主導権が握れないので、早い段階で動かしやすい
位置に移動させます。
中盤では「車」を味方陣地の5段目、あるいは敵陣地の4段目に移動させ、
味方駒の移動をサポートします。
この時敵は「車」と刺し違えようと応じてきますが、絶対「車」を取らせてはいけません。
(逆にこちらは相手の「車」と守備駒の刺し違えを目指します)
その後、味方の駒と連携して敵の「九宮」を攻撃します。
終盤は「車」を中央の線、あるいは縦横に長く移動できる場所に配置し、
臨機応変に攻守に対応できるようにします。
この駒は序盤、動かせる範囲が限られているので「車」や「砲」(炮)ほど活躍できません。
しかし終盤に入ると移動がスムーズになり、「砲」(炮)以上に活躍します。
※ちなみにこのことを「残局馬勝炮」(終盤「馬」は「炮」より強くなる)と言います。
ですから序盤に味方の「馬」と敵の「砲」(炮)を刺し違えるのは良いとしても、
終盤にそれらの駒を交換をすると味方が不利になってしまうと考えられます。
<基本的な動かし方>
「馬」はその駒が位置する場所によって移動できる範囲が変わってきます。
盤面の端に位置するよりは中央に配置したほうがより活躍できるため、
「馬」を端に置くのは悪手と言われています。
序、中盤この駒は移動がスムーズにいかないため、敵の「車」・「砲」(炮)に狙われやすくなります。
対策として、「馬」を動かす時にはあらかじめ「馬」が移動する道をつくっておきましょう。
移動させた後も「車」や「砲」(炮)のヒモをつけ、敵からの攻撃に備えます。
盤面に駒が少なくなる終盤がこの駒最大の活躍場です。 ガンガン敵陣に攻めていって 敵に圧力をかけましょう。
この駒は移動がスムーズな上、駒を飛び越えて敵を捕えるため序・中盤においては
「車」に次ぐ働きをします。
またその特徴を生かして敵陣深くに圧力を加えることができます。
<基本的な動かし方>
序・中盤、この駒は相手方の「士」(仕)・「象」(相)をけん制し、 他の駒の侵攻をサポートします。
終盤、盤面に飛び越える駒が少なくなると敵陣で活躍しにくくなるため、
自陣の「九宮」に戻って「士」(仕)・「象」(相)と連携を取り、攻守に渡って動けるようにします。
緑方は「将」が移動できないため「士」を後ろに下げますが、
それに対して赤方は「兵」を左に動かすことで続けて王手をかけます。
以下、同「将」に「仕」を黄色点に移動させて赤方の勝ちです。
このように「砲」(炮)は終盤、自軍の「九宮」から
相手の「九宮」にプレッシャーをかけるのがセオリーとなっています。
※ちなみにこの定跡を中国語で「残棋炮帰家」(終盤、炮を九宮に戻せ)と言います。
【補足】 敵方に「象」(相)がなくなった時に「砲」(炮)が最も活躍します。
このような状況の時は「砲」(炮)を安易に切らず、温存しましょう。
この駒は「九宮」から出られませんが、「将」(帥)を守る上で重要な役割を果たします。
<基本的な動かし方>
この駒は基本的に動かさないのが原則で、「将」(帥)の左右あるいはその前で
王の安全を守ります。
この他には「将」と「帥」の目が合うのを防いだり、接近してきた「馬」にすり寄ってその移動を
妨げたり、
「砲」(炮)と連携して敵の「九宮」を攻めるのを手伝ったりします。
これに対して赤方は「九宮」中央に位置する「仕」を「馬」の下に移動させ、その移動を妨げます。
以下緑方は「車」を黄色点に移動させ、「帥」の移動にプレッシャーをかけますが、
赤方は一段目の「仕」を「九宮」中央に移動させて対応します。
この時、2つの「仕」の形が羊の角の形に似ているため、
この陣形を「羊角仕」と言います。
この陣形は「将」(帥)が左右どちらにも移動でき、
敵方「馬」の攻めをよく防ぐので、「馬」に対する受けの手に使われます。
「象・相」も「士」(仕)と同じく「将」(帥)を守る駒です。 ただこの駒は中段まで移動できるので、 他の駒の移動をサポートできます。
<基本的な動かし方>
この駒も原則としてやたらと移動させないことになっています。
この駒がいなくなると陣形がうまく機能しなくなるので、
敵に狙われても大丈夫なように他の駒のヒモをつけておくようにしましょう。
緑方は「将」を移動させることができないので、「象」を下げて「炮」の攻撃を防ぎますが、
このすきをついて「車」を黄色点に移動させて「象」を攻撃するのです。
以下「象」が逃げたら「車」を青点まで下げ(「炮」で王手)、「象」が戻ったところに「車」で
横の「卒」をかすめとって赤方優勢です。
このように「象」(相)がなくなるとそのほころびから「砲」(炮)が間断なく攻撃してくるので、
特に注意して守らなければなりません。
(逆に攻撃する時はいかにして「象」(相)をつぶすかに腐心します)
この駒は進めるだけで後ろに下がれません。また移動も1つずつと緩慢ですが、
破壊力があり、
多くの勝負はこの駒が最後決定的な役割を果たします。
特に将門(中央の線・敵方4段目)はある種の急所となっていますので、
この駒でそこを陣取ると強力な威力を発揮します。(上の図上段の「兵」が陣取っている所)
<基本的な動かし方>
序盤、中央の「卒」(兵)は動かしてはいけません。序盤段階でこの駒を動かしてしまうとこの駒が宙に浮いてしまい、
敵に狙われても対処できなくなってしまいます。
(ただ「中炮布局」(炮を中央の線に持ってきて戦う戦法)のときはこの限りではありません)
その他の「卒」(兵)は味方の「馬」が移動できるように道を空けたり、敵が「馬」道を
空けるのを妨げるため、
局面に応じて移動させます。
図、赤方は「兵」で右の「士」を取ります。以下、同「士」に「車」を青点に移動させて王手。
その後「士」を下段に下げて応じる手に「馬」を黄色点に移動させて
赤方優勢です。
このように「卒」(兵)は他の駒が「九宮」を攻める時の突破口になる役割を持ちます。
参考:言穆江・姜昕 『象棋入門一月通』 (2000年、上海文化出版社)